ベビモンRAMIやBlACKPINKロゼの声を生んだYGの歌唱法
はじめまして、このブログはK-POP歌唱のボイストレーニング、アーティスト開発を行っているTop1ine Artist Developmentが専門家とともに監修しています。
今回は前回と引き続き、K-POP大手事務所ごとの歌唱法を解説していきます。
前回はSMエンターテインメントを特集しました。この記事と併せてそちらもぜひご覧ください↓
K-POPアイドルの歌唱力①│aespa”ウィンター”を育成したSMエンターテインメント
K-POPに激震が走ったBabymonsterのデビュー
第4世代と呼ばれるK-POPの女性ガールズグループが群雄闊歩してきた時代が続いてきましたが、2024年からはさらにその流れが加速しています。
特に第4世代は大手事務所SMエンターテインメントからはaespa、JYPエンターテインメントからnmixxといったネクストレベルのパフォーマンスをするグループが登場し、歌唱力もアイドルのレベルを超えてアーティストレベルに変化していきました。
そこから2024年になり、ついにBlACKPINKの所属していたYGエンターテインメントが新しい女性グループ(ヨジャグループ)をデビューさせ、瞬く間に世界中のファンを得ました。
全員が170㎝に近いような高身長で圧倒的なスタイルの良さ、さらに全員がトップラインボーカルという、今までに見たこともないK-POPの常識を根底から覆すようなグループだったのです。
第1章:YGエンターテインメントの歴史
今やK-POPの枠組みを超えて、世界のトレンドアーティストになったBLACKPINKを輩出した事務所、YGの人気の秘密は各タレントの圧倒的な個性にあります。特にインターナショナルな人気を得るための歌唱力について、他社とは全く違う独自の声質のアーティスト達を育成していることが特徴です。
今回の記事では、YGアイドルのボーカルの特徴を、歴代YGガールズグループのメインボーカルに焦点を当てて分析していきます。
YGエンタを創ったヤンサことヤン代表とは?
YGエンタ―テインメントは、1996年に、ヤン・ヒョンソクによって設立された芸能事務所です。
彼の人生を見ていけば、なぜBIGBANG、2NE1、BLACKPINKなど、K-POPの知名度を一躍グローバルに轟かせた伝説的アイドルグループを産みだしてこれたのかが見えてきますね。
伝説のアイドルグループのメンバーだったヤン社長
通称「ヤンサ(ヤン社長、の略)」として知られるヤン・ヒョンソク自身、「ソテジワボーイズ」という、K-popの始まりを告げたと評される伝説的音楽グループでダンサー兼ラッパーを務めていた過去があります。
Seo Taiji and Boys -‘I Know’のステージでダンスを披露するヤン・ヒョンソク
(ライトブルーのデニムハーフパンツ着)
上のソテジワボーイズ解散後、「ヒョン企画」というレーベルからスタートしたYGは、その初期に「Keep Six」や「JINUSEAN」「1TYME」といったhip-hopアーティストをプロデュースし地足を固め、R&Bの制作に特化したレーベルとの協業を進めました。
そこから「Big Mama」を筆頭にブラックミュージックのブームを韓国歌謡界に巻き起こすグループを生み出して快進撃を続けていくのでした。
ここからわかるように、YGはK-POP三大事務所の中で最もブラックミュージック系ヒップホップやR&B色が強い事務所と言えます。
2NE1の大ヒットで米国寄りのサウンドプロデュースを確立
さらにまだ可愛らしいアイドル音楽やJ-POPカバーなどが主流だった2000年代の韓国音楽市場において、「I am the best」など世界的ヒット曲で著名となったガールズグループ2NE1をデビューさせたことを皮切りに、YGは米国音楽マーケットの主流を意識したサウンド作りを顕著にしていきます。
2NE1 SBS番組『人気歌謡』での「I am the best」ステージパフォーマンス
セルフプロデュース型アイドルの育成
また、もう一つの特色として、セルフプロデュースできるアイドルグループの育成を得意としています。YGが強味を持つhip-hopをベースとした独自の音楽スタイルを各グループのメンバー自身が追求する「セルフプロデュース型アイドル」の代表格としては、BIGBANGが挙げられます。
リーダーのG-DRAGONが、同グループの楽曲の作詞作曲を多く担っているというように、YGのアイドルプロダクションは、ヤン代表の関与を最小限 に留め、各アイドルグループの個々人の能力を最大化することを重視しており、ソロ活動も積極的にサポートしています。
G-DRAGONのソロアルバム『HEART BREAKER』は大ヒット
現代のガールズクラッシュの原型を作ったYG
また、2NE1のようなガールズグループのスタイルに見られるように、YGは少女性を強調するようなガールズグループをプロデュースするという典型的な慣例から脱却し、力強く独歩的なイメージのガールズグループを作ることに重点を置いてきました。
この傾向は、2NE1の妹分グループであるBLACKPINK、さらに第5世代の実力派として認知されつつあるBABYMONSTERにまで継承されています。
これは、これまでとは違った10代の女性ファン層を掘り起こし、YGの女性アイドルのマーケティング上の強固な差別化として機能しました。
韓国社会では、所属事務所の統制が良い意味で強く取れているSMエンターテインメントに比べ、YGはより自律的で、所属グループの創造性を最もよくサポートする事務所だと評価されています。
第2章 YGサウンドを支えるボーカルの特徴
そうしたプロダクション面での特徴は、ボーカルのディレクションにも顕著に現れています。
概して「YGボイス」と呼ばれる、YGアーティストのボーカル強者に顕著な歌唱スタイルです。その代表格であり「YGボーカルの基準」として業界で高い評価を受けてきた2NE1のメインボーカルだったパク・ボムを詳しく見ていきましょう。
パク・ボムの『YGボイス』がROSEの発声にもつながる
2NE1のパク・ボムは非常に個性的な声と歌唱スタイルを持ち、第2世代のガールズグループの中でもトップクラスの歌唱力を持つと評価されてきました。R&Bソウルのスタイルをベースに、J-POPとは違う特殊な鼻腔共鳴を使った重厚な歌い方が特徴的です。
パク・ボムのボーカルスタイルの変化
パク・ボムYGオーディション時の映像
ヤン・ヒョンソク代表やYGのBLACKLABELプロデューサーのTeddyら曰く、「韓国ではめったに存在しない声」と言わしめるほど稀少なタイプの声であり、また英語ネイティブでもあることから本格的なR&B楽曲に対応できることが、YGが第2世代ガールズグループで差別化を図る強みとなりました。
声域も広くいわゆるミドルボイスの(C3)から2オクターブ上の(G5)までで、ファルセットとヘッドボイスの最高音は3オクターブ上のソ#(G#5)にまで達するといわれています。
BLACKPINKロゼがさらに現代的なR&B歌唱へ
BLACKPINKのメインボーカルとして、歌唱力で圧倒的な存在感を誇るロゼ。
動画で聴いていただければ一目瞭然ですが、鼻腔への特殊な共鳴を持つ歌唱スタイル、やはり英語のネイティブである点など、全体的に彼女の歌唱力は2NE1のパク・ボムを継承するものとなっていることは注目すべき点です。
デビュー当初から粘るような声の音色が顕著であり、パク・ボムのスタイルを移植するようなボーカルトレーニングを受けたのではと推測されていました。
しかし、キャリアを積むごとにさらにEDMやカントリー調の楽曲にも活かせる豊かな音色とテクニックが加わり、パク・ボムとは異なるスタイルを生み出しています。
パク・ボムが黒人のようなR&B系の太い声色を強調とするのに対し、ロゼは軽快かつソリッドでクリアなトーンの高音に強味があります。
キングオブマスクドシンガー(覆面歌手のパフォーマンスを聞き、歌い手が誰かを当てる韓国の人気歌謡番組)出演時には、パネリストや視聴者から「覆面をしている意味がない」と言われたほど、その個性は際立っています。
king of masked singerでラテン楽曲のリッキーマーティンを歌うロゼ
音域は最低音で低いド(C3)から、ライブで披露された高音はファルセット3オクターブ上のソ#(G#5)、とロゼも広いボーカル音域を誇ります。
BABYMONSTERのラミはYG新時代の歌唱力
ロゼのいたBLACKPINK以来、7年ぶりのYG発ガールズグループとして2024年4月にデビューしたBABYMONSTER。
モンスターというその名が示す通り、まだ若いながらも卓越したパフォーマンススキルを武器に、第4世代の大型グループに続き圧倒的なグローバル人気を築きつつあります。
そしてこの『全員がメインボーカル』と言われるグループにおいて、”最も強い声”としてのメインボーカルを務めるのがRAMIことラミです。
彼女自身、ロールモデルがロゼだと公言しており、また、YGが公式的に「YGの正統派ボーカル」と認めるように、「YGボイス」を受け継ぐボーカリストとして頭角を現しつつあります。
15歳ですでに完成されたラミの歌い方
若干15歳にもかかわらず非凡なスキルと表現力を持ち、K-POPアイドルが多数通学する韓林演芸芸術高等学校の実用音楽科でトップ入学したほどの実力者です。
低音域からホイッスルボイスまで非常に幅広い音域を安定的に運用できる能力と、非常に繊細なディティールのコントロール能力が際立つボーカリストです。
鼻腔の響きの強さはパク・ボムやロゼと共通した要素ですが、さらに声帯を擦るようなハスキーなテクスチャーの声、細かく震えるようなヴィブラートでより現代的なニュアンスを帯びており、伝統美であった「YGボイス」に新たな色を彩る才能として、絶賛的に支持されています。
BABYMONSTERオーディション時のラミのパフォーマンス
ラミのEDM楽曲にも埋もれないボーカルテクニック
2NE1時代からYGサウンドの特徴として、アメリカのDestiny’s Childなど正統派R&Bの要素もありつつ、韓国のトロット文化などと相性のいいEDM(エレクトロダンスミュージック)の音色を入れている点が挙げられます。
EDM楽曲はボーカルよりもまず地響きのように硬いドラムやシンバルのサウンドと聴衆を煽る高音域倍音のシンセサウンドを前面に押し出すので、R&B式のスムースな歌声がかき消されてしまう問題があります。
ですが、ラミの地声はEDMサウンドの硬い楽器音色に埋もれないさらに強い音色を持っているため、例えば1st楽曲”Batter Up”のようなEDM音色が強い楽曲においてもトップラインボーカルを担当し、楽曲を歌でリードできるのです。
BABYMONSTER – ‘BATTER UP’ LIVE PERFORMANCE
まとめ ヒップホップやR&B文化への深い愛情
YGエンターテインメントの躍進は、ヒップホップやR&Bといったジャンルへの深い理解と、アーティストたちの自己表現を尊重する姿勢から生まれました。
パク・ボム、ロゼ、ラミといった時代を飾るボーカリストたちは、その独特な声とスタイルでYGの音楽的アイデンティティを際立ったものとすることに貢献し、YGが追求する音楽の深みと多様性を象徴する存在です。
アジア人には難しいとされていたヒップホップや正統派R&Bミュージックの声の個性を前面に出したガールズグループのプロデュースは、YGが業界において独自の地位を築く要因となりました。今後もYGは、その革新的な精神を持って、世界の音楽シーンに新たな風を吹き込み続けることでしょう。
日本人がYGアーティストのR&B歌唱をマスターするには?
私たちTop1ineでは、グローバルオーディション優勝者やメジャーレコード会社デビューのリードシンガー達による長年の研究に基づいて、K-POPにも通用するR&Bスタイルのボイストレーニングを提供しています。
過去に書いたこちらの記事では基本的なK-POPアイドル歌唱とJ-POP歌唱の違いをトレーニング方法を交えて紹介していますので、ぜひご参照ください。
【実例解説】K-POPアイドルの歌い方はJ-POPと何が違う?│『K-POPボイトレ』でスクール初心者が学ぶべき4つの発声技術
もちろん、今回ご紹介したYGアーティストのような歌唱法で歌いたいというご要望にもお応えしておりますので、実践的に学んでみたい、オーディションに受かるために技術を高めたいという方は、ぜひお問い合わせいただければと思います。