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JYPエンタの歌い方とボイストレーニング│NiziUミイヒなど歌が上手い歴代メインボーカルの特徴│K-POPアイドルの歌唱力③

2024 - 07.18
執筆者情報
TOKIONE TETSUYA

AVEXワールドオーディション台湾での優勝を機に作曲家として活動し、
独立後はシティポップ・アーティストとしてJAPAN TIMES誌にも掲載された。
NTTドコモ音楽事業部にて、デジタル音楽及び全国オーディションプラットフォームのサービス主幹を担当。
2014年から発掘・アーティストプロデュースを担当した清水美依紗がメジャーデビューを果たした。
早稲田大学・政治経済学部政治学科卒。

JYPエンタの歌い方の特徴と、代表グループのメインボーカルの特徴

「韓国三大芸能事務所」また「ガールズグループの名家」として、K-popの歴史に確固たる地位を築いてきたJYPエンターテインメント。

TWICEに代表されるように、韓国で国民的な人気を誇るグループを産みだし、K-POPコアファンだけでなく大衆にも愛されるアイドルをプロデュースしてきた同社。

以前の記事で紹介したSMエンターテインメントやYGエンターテインメントとは異なる、ボーカルディレクションの特徴があります。

2024年現在、特にJYPの最も新しいガールズグループであるNMIXXが、ボーカルパフォーマンスで優れた実績を残し、韓国歌謡界で注目を集め、その育成方法に多大な関心が寄せられています。
本記事では、JYP女性アイドルのボーカルの特徴を、同社の代表であるパク・ジニョンのアーティスト哲学やトレーニング方法に着目し、分析していきます。

代表はJYパークことパクジニョン


第1章 JYPエンタの歴史

「ガールズグループの名家」と呼ばれる理由

JYPエンタ―テインメントは、韓国の著名アーティストであるパク・ジニョンにより、1996年に設立された、総合エンターテインメント企業です。

韓国で4番目に古い歴史を持つ同社ですが、代表であり統括プロデューサーであるパク・ジニョンを始め、RAIN(ピ)などのソロアーティストから、god、Wonder Girls、2AM、2PM、miss A、GOT7、TWICE、Stray Kids、BOY STORY、ITZY、NiziU、NMIXX、VCHA、NEXZなどのアイドルグループ、さらにDAY6、Xdinary Heroesなどのバンドグループなど、多彩なアーティストを抱える巨大事務所であり、SMエンターテインメント・YGエンターテインメントと並べていわゆる「韓国3大芸能事務所」の一つとしても知られています。(現在HYBEが加わり4大事務所の時代とも呼ばれます)

JYPエンタはまた、「ガールズグループの名家」と呼ばれ、とりわけ女性アイドルグループのプロデューシングに定評があります。

Wonder Girls、Miss A、TWICE、ITZY、NiziU 、NMIXXへと連綿と受け継がれてきたガールズグループの歴史を眺めてみると、コンセプトやそれぞれのグループが追求する音楽性において、その共通性よりも変化のほうが際立っているように思われます。

レトロアメリカンポップを基調としたWonder Girls、や強く洗練された女性をコンセプトとするMiss A、可愛らしくポップではつらつとした親しみやすさが際立ったTWICE、複数ジャンルの音楽をミックスし先端的で未来的な世界観のNMIXX、というように、JYPはその時々のK-POPシーンを先導する方向性を打ち出せる企画力を強味としています。

ボーカルの歌唱力に定評があるNMIXX

 「空気半分、声半分」「話すように歌う」ボイストレーニング

しかし、ボーカルという観点で見るなら、JYPが最も重要視しているポイントは不変です。パク・ジニョンは、ガールズアイドルのメンバーを選別するオーディション番組を幾度か企画し、トレーニングの過程を公開していますが、その中でボーカルについて度々アドバイスしていることが2点あります。

それが「空気半分、声半分」、そして「話すように歌う」です。すなわち、この2点が、JYPアイドルのボーカルの特徴を分析する上で、外せない観点となります。

第2章 JYPパク・ジニョンのボーカル哲学

キャリア30年を超える、レジェンドアーティスト

「空気半分、声半分」「話すように歌う」をパク・ジニョンが、何故重視しているのか、彼のアーティストとしてのキャリアと、その哲学に注目して考察してみましょう。

韓国の名門大学である延世大学在学中の1992年に「パク・ジニョンと新世代」としてデビューした後不遇の時期を過ごし、バックダンサーを経てR&Bソロシンガーとして再デビューを果たして以来、2024年現在も芸能活動を継続しているパク・ジニョン。

若かりし頃のパク代表

韓国大手芸能事務所の代表であり、かつ現役のアーティストである唯一無二の存在感から、同氏の発言は常に注目を浴びます。
彼は、長い手足を活かした卓越したダンススキルと、優れたボーカル、時代に先駆けた楽曲をプロデュースする能力をあわせ持つ本格派のアーティストですが、時に常識を覆すような大胆なパフォーマンスで世間の耳目を集めてきました。

保守的な価値観が根強かった韓国の風土において、シースルーの衣装や雑誌でヌードを披露するなど、既存のアーティスト像を覆す奇をてらったプロデュース戦略を採る変わり者として、韓国の大衆に認識されている傾向があり、多数のミームも作成されています。

しかし、インタビューなどで同氏が明かしているアーティスト観は非常に真摯なものであり、目まぐるしい流行の移り変わりの中激しい競争を強いられるK-POPアーティストたちにとって、お手本のような指針を提示していることで、多数の尊敬を集めてもいます。

「真実・誠実・謙虚」

JYPには「真実・誠実・謙虚」という社訓があり、所属アーティストに対する人格教育を重視することを一つの特徴としています。

Nizi Projectでオーディション性に語るパクジニョン

偽りのない自分自身の本来の姿を表現し、継続して努力を続けるアーティストこそが、その芸能生活を長く継続できる、そのようにパク・ジニョンは考えています。こうしたアーティスト観のもとに、「話すように歌う」「空気半分、音半分」というJYPアーティストに求められるボーカルの基本姿勢が定められているのです。

第3章 JYPボーカルの特徴

チェストボイスの習得がJYPアーティストの第一歩

では、JYPのアーティストたちは、実際にどのようなボーカルトレーニングを受けているのでしょうか。韓国の主要新聞である「東亜日報」の記者による、2009年発表の入社体験記事を参照しつつ、その具体的な内容に迫ってみましょう。

新規の練習生は、チェストボイスの習得からスタートします。息を吐きながら、声を出す。
JYP歌唱法としてよく言及される「空気半分、声半分」は、実のところ、このチェストボイスの習得を基本的なボーカルスキルとしてJYPが推奨していることに由来します。

KBS(韓国の国営放送)の人気番組リムジンサービスにNMIXXのヘウォンが出演した際、同番組のホストで卓越したボーカル力で知られる若手ポップス歌手のイ・ムジンが、NMIXXのヘウォンのボーカルについて「チェストボイスがよく目立つ歌唱法だ」と評価したことは、チェストボイスがJYPボーカルの基盤であることを示す好例です。

リムジンサービス『NMIXXのヘウォン回』

例えば、これは韓国大衆の一般的な感覚を例に挙げますがSMエンターテインメントのアーティストはリスナーの聴覚的に胸声成分が少なく聴こえるクリアな発声を、YGエンターテインメントのアーティストはパク・ボムのように喉を強く鳴らすように聴こえる発声を一つの特徴としているのと比較すると、JYPボーカルが基本技に忠実なスタイルを特徴としていることがよくわかります。

喉を守るボーカル技術としての「話すように歌う」

これは、パク・ジニョンが、息の長い歌手生活を送れるよう、喉を酷使しないボーカル技術を若いうちに身に着けることを重視していることと関係しています。

「話すように歌う」も同様です。代表の基本哲学を借りれば「空気半分、声半分」で強く発声すると、声帯接触率が下がり声の枯れを起こしやすいと考えているようで、

「話すように歌う」ことで喉を守りつつ、聴き手への伝達力を高めることで、理想の歌唱が可能になるという理論と推測できます。

ライブで実力を発揮するためのボイストレーニング

パク・ジニョンは、チェストボイス・鼻腔共鳴・ヘッドボイス、これらの3タイプのハーモニーによって、聴き手を飽きさせないボーカルが初めて完成すると述べています。

実際、JYPのアーティストは、優れたライブボーカルの実力においても高く評価されることも多く、基礎を徹底しシチュエーションに左右されない歌唱力を身に着けていることがわかります。

2022年にデビューした、NMIXXは第4世代トップクラスのボーカル力を誇るガールズグループとして認知されていますが、彼女たちは「歌いながら踊る」というシンプルなトレーニングの積み重ねにより、激しい振付けの多い同グループの楽曲においても、安定したライブボーカルを可能にしています。


第4章 歌が上手いとされるJYPのメインボーカル達

最後に、歴代JYPガールズグループのメインボーカルについて、各々の特徴を見ていきましょう。「話すように歌う」とは、各々の自然で等身大のボーカルを育てていく、ということでもあります。以下に取り上げたメインボーカリストたちは、そのスタイルは様々ですが、自身の強味を最大に活かしたスタイルを作り上げているという点で、JYPの求めるボーカリストの鑑のような存在です。

Wonder Girls:ソネの歌唱力

2007年にデビューしたWonder Girlsは、「Tell Me」、「So Hot」、「Nobody」などレトロなアメリカンポップをベースとしたコンセプトとキャッチーなメロディーで人気を博し、またK-popガールズグループの欧米進出の先陣を切ったグループとして知られています。

2014年までメインボーカルを務めたのが、ソネです。彼女の声は、深い感情表現と多様なジャンルへの対応力で知られています。彼女は、ポップからバラードまで、さまざまなジャンルに適応できる、力強くも落ち着いたトーンを持っています。


Miss A:フェイの歌唱力

JYP第2のガールズグループとして、2010年にデビューしたのがMiss Aです。自立した都会的でシックな女性像をテーマにした同グループの楽曲は、デビュー曲「Bad Girl, Good Girl」から大ヒットを記録し、JYPガールズグループの鮮烈なイメージをK-popの歴史に刻みました。

同グループは、厳密にはメインボーカルという概念はないのですが、その中でもボーカル力に定評があるメンバーがフェイです。

彼女の声は、滑らかで官能的な質感が特徴です。彼女は、Miss Aの曲に独特の風味を加える豊かで温かみのあるトーンを持っており、アップビートなトラックでもスローなバラードでも際立っています。


TWICE:ジヒョの歌唱力

2015年に「Like OOH-AHH」でデビューし、JYPを「ガールズグループの名家」として決定づけた韓国国民的ガールズグループのTWICE。

可憐ではつらつとしたビジュアルと、耳馴染みのよいポップなメロディーに始まり、「FANCY」以降、成熟した大人の魅力をクールでエッジの効かせたコンセプトで表現するようになっています。

メインボーカリストであるジヒョは、幅広い音域を持つ力強くてクリアな声を持っています。パワフルな高音と豊かな感情表現は、TWICE の楽曲に確固とした芯を与える、非常に重要なインパクトを持っています。


ITZY:リアの歌唱力

2019年デビューのITZYは、ガーリーなコンセプトのTWICEとは一転して、 ガールクラッシュコンセプトを取り入れたパワフルなダンスナンバーを主体としたグループです。

「WANNABE」に象徴されるように、「私は私」といった、ありのままの自己を肯定して生きようとする女性観を提示している同グループでメインボーカルを務めるのが、リアです。

彼女は、その甘やかで繊細かつ透明感のある声で、ITZYのエネルギッシュでアップテンポな楽曲に彩りを与えています。

高音域を得意とする他グループのメインボーカリストと異なり、中低音域に強味があり、R&Bのようなソウルフルな音楽に適したボーカリストとして評価されてもいます。


NiziU:ミイヒの歌唱力

ソニーミュージックとの日韓合同オーディションプロジェクト「Nizi Project」から2020年に誕生しNiziUは、日本的な成長型アイドルと、kpopのハイスキルなボーカルとダンスに象徴される韓国型アイドルの特徴を兼ね備えています。

カラフルでポップなコンセプトは、TWICEのコンセプトの系譜をイメージさせます。プレデビュー曲の「Make you happy」から日本市場で絶大な人気を獲得した同グループのメインボーカルの一人がミイヒです。透明感のある声質と、優れた楽曲理解力に裏付けられた表現力を武器としています。Nizi Projectの個人評価ステージで、Wonder Girlsの「Nobody」の世界観を完璧に解釈して歌い上げ、パク・ジニョンを驚嘆させたことはよく知られています。


NMIXX:リリーの歌唱力

2022年にデビューしたNMIXXは、「各メンバーがセンター級の逸材」と称され、ビジュアル・ダンス・ボーカル全てに強味を持つオールラウンダーから構成された、JYPのマンネ(最年少)ガールズグループです。

MIXPOPと呼ばれる、多様なジャンルを融合させた実験的な音楽スタイルを基調とし、デビュー曲「O.O」や「DICE」のように「change up」の掛け声でビートチェンジを行う構成を特色としています。

ボーカル巧者の多い同グループの中でも、傑出した声を持ち、第4世代女性アイドルの中でトップクラスの実力を持つのが、メインボーカルのリリーです。広い音域、しっかりした発声、呼吸のコントロール、迫力ある声量など、ボーカリストに求められる要素を全て兼ね備えた歌唱力の持ち主です。

複雑なテンポも難なく追えるリズム感と、独特のエキゾチックな音色を持つ声もまた、彼女を特別な歌手として印象付ける要素となっています。


第4章 JYP式のボーカルトレーニングを手に入れるには

JYPエンターテインメントは、ガールズグループのプロデュースにおいて多様なコンセプトと音楽性を追求し続けています。

Wonder Girlsのレトロアメリカンポップ、miss Aの強く洗練された女性像、TWICEの可愛らしくポップなイメージ、NMIXXの先端的で未来的な世界観など、各グループは独自のスタイルを持ちながらも、JYPの企画力によって一貫した成功を収めています。

パク・ジニョンの「空気半分、声半分」「話すように歌う」というボーカル哲学は、JYPアーティストの特徴的な歌唱スタイルを形成し、彼らのパフォーマンス力を高めています。

また、「真実・誠実・謙虚」という社訓のもと、アーティストの人格教育にも力を入れており、これによりJYPのアーティストたちは高いパフォーマンス力と人間性を兼ね備え、長期的な成功を収めています。JYPエンターテインメントは、今後もK-popシーンをリードし続けることでしょう。

JYPアーティストのように歌うには?

それでは「空気半分、声半分」「話すように歌う」と意識するだけで日本人にも同じ歌唱が出来るのでしょうか?答えとしてはそれだけでは不十分だと言えます。

もともと大衆にも歌唱についての深い理解があり、各事務所の声質を聞き分けるほど聴覚が研ぎ澄まされている韓国と、その下地が無い日本ではスタートが違うのです。

私たちTop1ineでは、日本から世界に通用するトップライナー・ボーカルを輩出できるよう研究しています。K-POPで使われる歌唱技術については下記の記事を併せてご覧ください。

【実例解説】K-POPアイドルの歌い方はJ-POPと何が違う?│『K-POPボイトレ』でスクール初心者が学ぶべき4つの発声技術

また、実際にレッスンを受けてみたいという方はページ下の問い合わせフォームから、お気軽にお問い合わせください。

 

執筆者情報
TOKIONE TETSUYA
AVEXワールドオーディション台湾での優勝を機に作曲家として活動し、 独立後はシティポップ・アーティストとしてJAPAN TIMES誌にも掲載された。 NTTドコモ音楽事業部にて、デジタル音楽及び全国オーディションプラットフォームのサービス主幹を担当。 2014年から発掘・アーティストプロデュースを担当した清水美依紗がメジャーデビューを果たした。 早稲田大学・政治経済学部政治学科卒。

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