はじめに HYBEの楽曲が似ていると言われる理由とは?
このサイトではグローバルアーティストを目指す方や、そのファンダムの方へ実践的な知識をお伝えしていますが、今回は2024年時点でのHYBEの音楽性について、ご紹介していきます。Youtubeでも取り上げていますので、この記事を読んで気に入ってくださった方は記事最後のリンクからぜひご覧ください。
NewJeansとILLITの盗作騒動
2024年は、K-POP最大手事務所HYBEを巡ってビジネス上の大きなトラブルが露呈しました。NewJeansのプロデューサーであるミンヒジン氏と会社側の対立が深まり、会社側がミンヒジン氏を糾弾する声明を出した後、4月25日にミンヒジン氏が反論の記者会見を開きました。日本でもテレビで大きく取り上げられるなど、その影響は世界を駆け巡りました。
2024年4月25日の会見を伝える日本のANNニュース
会見の中で、ミンヒジン氏は同じHYBE事務所からデビューしたばかりのILLITというグループに対し、『NewJeansの盗作である』と断言、また同じくHYBEの筆頭グループLeSserafimには、『私がプロデュースしたかのように演出された』という趣旨の発言もし各アーティストのファン同士に亀裂を生む事態にまでなってしまいました。
LeSserafim楽曲によく起きる盗作疑惑の真相
そもそもこの騒動が起きる前にLeSserafimの楽曲には盗作疑惑がよく降りかかってきていました。例えば、2024年に出された”Smart”という楽曲は南アフリカ出身でビルボードチャートでも大ヒットを記録したTylaの”Water”のパクリではないかという騒動は割と大きなネットニュースになりました
HYBE is Reported to be Negotiating Settlement Fees with Overseas Producers to Cover Up LE SSERAFIM’s Plagiarized Songshttps://t.co/o57aEkobdY#HYBE #LE_SSERAFIM #하이브 #르세라핌 pic.twitter.com/5LknLQGVbp
— pannatic (@pannatic) May 17, 2024
作曲家、音楽プロデューサーの観点で言うと実は上の2曲は創作における類似性は殆どなく、盗作とは呼べないのですが、特に2023年から24年のHYBE楽曲に対してこういった外からの批判が目立ったような気がします。
SmartはDoja CatのWomanをリファレンス(参考)にした楽曲
ちなみにLeSserafimのSmartのサビメロディ部分はTylaではなく、その前にトレンドとなっていたDojaCatのWomanという楽曲をリファレンスしていて、似ているというならば本来はこちらを言わないとおかしいのです。
Doja Cat-Woman(2022)
ですが、Tylaの楽曲の話ばかりが持ち出されていた現象を見るに、話題作りのためのプロモーションの一環だったのかもしれないという推測も出来ますね。
ILLITのMagneticサウンドの元となったピンクパンサレス
一方、可愛らしい文学系女子コンセプトがNewJeansのコンセプトを引用したものなのではないかという疑念が生まれてしまったILLITですが、似ているのは5人組というくらいで、肝心のサウンドコンセプトはNewJeansとは少し違うように感じます。
ILLIT₋Magnetic (2024)
このMagneticという楽曲が発表された当初、ゲームのようなピコピコとしたサウンドが日本の電子音楽を想起させジャパニーズ・サウンドを取り入れたかのように評論されていました。
しかし、このサウンド感はジャパニーズサウンドではなく、UK(イギリス)でその2年ほど前に流行ったピンクパンサレスの『Boys’re Liar Pt2』にとても良く似ているもので、リファレンス(参考)にしたのはほぼ間違いないと言えます。
Pink Panthress – Boys’re Liar pt2
そして、このピンクパンサレスのサウンドの元となっているのが、2023年からHYBEが積極的に取り入れていたUKガラージという音楽ジャンルになります。
次章からこの記事のメインコンテンツとして、このUKガラージとピンクパンサレスについて、深堀解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
第1章 ピンクパンサレスとUKガラージサウンドの特徴
ピンクパンサレスのプロフィール
ピンクパンサレスはイギリスカンタベリー育ちのシンガーソングライターで、TikTokを通じて一躍有名になった新世代のポップアイコンです。
音楽スタイルは主にリズムでドラムンベースや2ステップといった早いリズムの楽曲を好み、1990年代から2000年代の音楽をサンプリングして自身の楽曲の中に取り入れることもあるため、楽曲の雰囲気としてイギリス発祥のUKガラージと呼ばれることが多いです。
しかし本人はジャンルにこだわらず、自分が楽しいと思う音源を作っているだけと述べています。
特に人気の高かった『Just For Me』という彼女の楽曲は、のちに人気ラッパーCentral Cee(セントラル・シー)によってリミックスされ、『Obsessed With You』として2021年に大ヒットしました。
Pink Panthress -Just For Me
この歌い上げない、言葉をささやくような歌い方はまさにNewJeansなどHYBEのボーカルスタイルを彷彿とさせますね。
UKガラージがNewJeansの歌い方へ影響を与えた
UKガラージとは、1990年代初頭にイギリスで誕生した音楽ジャンルの呼称で、それまでクラブミュージックで流行したハウスやドラムンベースといった音楽の影響を受けて誕生しました。
速いテンポ(BPM130以上)で2STEP(2ステップ)と呼ばれる1つの小節の中に2つのリズムが組み込まれた無機質に跳ねるような感覚が特徴です。
当初はその無機質なトラックの上にソウルフルなハウスボーカルのような歌い上げる歌唱スタイルだったのですが、2000年代Craig Davidという歌手の登場により軽やかに喋るように歌うスタイルへと変貌を遂げ、世界中で大ヒットしました。
Craig David – Fill Me In(2000)
第2章 K-POPアイドルとUKガラージの融合
2ステップあUKガラージという音楽ジャンルは、日本では殆ど言葉として定着することはなく、かつてのm-floの楽曲で用いられていましたが当時それが2ステップやUKガラージとして紹介されることはなかったと記憶しています。
しかし、韓国では大手事務所が積極的に取り入れており、SMエンターテイメントもf(ⅹ)というアイドルグループの楽曲の中でこの2ステップ及びUKガラージ・サウンドを前面に取り入れていました。
f(x)-4 Walls )2015リリース
ミンヒジンも関わったSMのUKガラージ曲
上記の楽曲を輩出したSMエンターテインメントと聞いてピンと来る方はもうお分かりかと思いますが、このf(x)のミュージックビデオにアートディレクターとして参加していたのが、後のNewJeansのプロデューサーとなったミンヒジンだったのです。
つまり、K-POPでUKガラージが流行した当初から、その最先端にミンヒジン氏は携わっており、その経験と創作への知見がHYBEへ移籍した後にも発揮されたのだと見立ててよいと思います。
ミンヒジンのSM時代のアートワーク
私的「kpop最高のアルバムデザイン」
(自分が実際購入して感動したものだけに選抜)
①fx “pink tape”
ビデオテープ型で若者にはレトロ可愛さ、大人には学生時代の懐かしさを想起させる📼y2kをどこよりも先取りしていた、時代の先駆者ミンヒジン氏の代表作の1つでありfx伝説の作品。 pic.twitter.com/SksgXqYFRJ— 🥄 (@moonkissed4u) November 7, 2022
第3章 HYBEアーティストへのUKガラージの影響
ではミンヒジン氏がHYBEに移籍後、HYBEのアートディレクション、楽曲ディレクションはいったいどう変わったでしょうか?
この章では具体的なHYBE楽曲を紹介しながら、UKガラージや2ステップ、そして先ほど紹介したピンクパンサレスの影響があるか探ってみましょう。
Jongkookの2ステップ楽曲”Seven”が大ヒット
HYBE=UKガラージの流れを一気に高めたのが、2023年夏の大ヒット曲『Seven』でした。それまでアップテンポなナンバーはヒップホップやファンクなどの印象が強かったBTSでしたが、そのメンバーであるグクことJongkookのソロナンバーは以外にも2ステップビート、サウンド的にも90年代後半のUKガラージを彷彿とさせるものでした。
Jong kook- Seven feat.Latto(2023)
特に、サビの”Monday Tuesday Wednesday♪”という曜日を連呼する歌詞は、上述したCraig Davidの往年のヒットナンバー『7days』からのオマージュです。ピンクパンサレスも含めUKガラージの系統を組む楽曲ではお決まりのように、この曜日を入れる歌詞の創作手法が使われます。
Craig David – 7days(2000)
LeSserafimもPerfect NightでUKガラージへ
そしてHYBE独自では初の大型ガールズグループとして、既に大成功を収めていたLeSserafim(ルセラフィム)も『Perfect Night』で往年のUKガラージサウンドを前面に押し出しました。
イントロで流れる乾いたエフェクトのかかったギターの音色はまさに90年代、00年代にヒットした2ステップビートの楽曲のイメージと重なります。
これらのHYBE楽曲で用いられているサウンドプロダクションはピンクパンサレスのUKリバイバルの影響というよりは、UKガラージの歴史に基づいてそのサウンドの作法に忠実に作られた楽曲だということが分かると思います。
LeSserafim – Perfect Night(2023)
NewJeansでUKガラージのエッセンスが登場
2ステップの流れがK-POPで高く再評価されていくなか、ミンヒジン氏が総括プロデューサーとして手掛けるNewJeansもやはりその流行を取り入れていきます。
まず思い起こされるのが『Cool With You』という楽曲、タイトルを見て分かるようにピンクパンサレスの名を世界に知らしめた『Obsessed With You』を彷彿とさせ、このジャンルに詳しい人のアンテナを刺激しています。
NewJeans - Cool with you(2023)
サウンド的にはCraig Davidがデビューする前、そのプロデューサーであるArtful Dodger名義で出したWoman Troubleによく似ています。よりUKガラージの源流や神髄に迫った音づくりをしようというミンヒジン氏の情熱が感じられます。
Artful Dodger-Woman Trouble(2000)
NewJeansの歌い方に見るピンクパンサレスの影響
そしてその後に世界中で大ヒットした『SuperShy』 『New Jeans』 『ETA』といった楽曲では、単なる2ステップのリバイバルという枠にはまらない現代的なクラブミュージックのエッセンスが果敢にも用いられています。
細かくは今回の記事では割愛しますが、特に『New Jeans』ではミュージックビデオの中にアニメ”パワーパフガールズ”のキャラクターに扮したメンバーの絵が登場しますよね。
実はピンクパンサレスも以前からパワーパフガールズアイコンなのです。
アートディレクターであるミンヒジンがそのことを知らないわけは無いでしょうから、敢えて同じアニメのキャラクターを使う理由が必ずあると思われます。
またこのころからNewJeansの歌い方が当初の楽曲よりもさらに、ささやく声、アニメのような可愛らしい声に変化して行っており、ボーカルディレクションの観点からも明らかにピンクパンサレスの歌い方に影響を受けているのがわかります。
Pink Pantheress -Nice to meet you (feat. Central Cee) 2024
第4章 K-POPとUKミュージックの未来
このように、2023年から24年にかけてのHYBEの音楽性の中にUKガラージからの影響が色濃くあったことはK-POP業界においても特出すべき兆候であり、ファンの方にもぜひ知っておいてほしいと思います。
結論として、HYBEのアーティストやレーベル同士で楽曲の盗作などを行っていたわけでなく、総体としてUKリバイバルへの大きな社としての動きがあり、各レーベルが競うようにUKサウンド楽曲を生み出していったというのが事実だと考えられます。
K-POPサウンド、ボイストレーニングを研究しています。
私たちTop1ine Artist Developmentでは、ボイストレーニングだけでなく楽曲製作やポストプロダクションの面でもK-POPを常に研究しています。
Youtubeチャンネルでも解説しております。
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