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【K-POP】KISS OF LIFE解説│Nattiの幻のデビュー曲、BELLEの歌の上手さなど徹底研究

2024 - 07.11
執筆者情報
TOKIONE TETSUYA

AVEXワールドオーディション台湾での優勝を機に作曲家として活動し、
独立後はシティポップ・アーティストとしてJAPAN TIMES誌にも掲載された。
NTTドコモ音楽事業部にて、デジタル音楽及び全国オーディションプラットフォームのサービス主幹を担当。
2014年から発掘・アーティストプロデュースを担当した清水美依紗がメジャーデビューを果たした。
早稲田大学・政治経済学部政治学科卒。

2024年大躍進のKISS OF LIFEを徹底解説

はじめに

このブログではK-POPやグローバルアーティストを目指す方々に向けて、K-POPアーティストの歌唱技術や音楽性に光を当てて解説しています。

前回はBlackPinkリサの新曲やUKガラージブームを取り入れたNewJeansについて解説しましたが、

今回は2024年の上半期、新しいガールズグループで特に大躍進を遂げたKiss Of Lifeというグループを詳しく解説していきたいと思います。


『Sticky』が2024夏にスマッシュ・ヒット!

2024年7月は大型グループのリリースが重なった

2024年7月はK-POP大型ガールズグループのニューリリースがひしめき合う上半期のハイライトとなりました。

まず、6月26日にNewJeansのダブルA面シングル『RIGHT NOW/Supernatural』が発売され東京ドーム公演も大成功、7月5日にSupernaturalのミュージックビデオパート2もリリースされ、日本ではお茶の間まで浸透し今年最大の話題となっています。

さらに、その前日7月4日にはSMエンターテインメントの大型ガールズユニットAespa初となる日本語楽曲(通称イルデ曲)『Hot Mess』のMV公開と配信がスタートし、こちらも地上波で大きく取り上げられるなど話題となっています。

音源ランキングで突出したKiss Of Life

そんな状況下で、7月1日には上記以外3つの実力派ガールスグループ『STAYC』『Babymonster』『Kiss of Life』の新曲及び新アルバムのリリースが重なるという、まさに戦国合戦のような1週間となりました。

『STAYC』は元々歌唱力に定評のある実力派グループ、『Babymonster』もYGエンターテイメントが満を持してプロデュースしたこちらも歌唱力を前面に押し出したグループですから、何かニュースが発表される度に大きな話題になりますね。

ですが、実際に蓋を開けてみると韓国の音源チャートでは『Kiss of Life』の新曲が最も良い成績で滑り出したことがわかります。

Melon週間チャートで1位を獲得したKiss Of Lifeの新曲

露出の多いダンス振り付けがプチ炎上議論に

2023年から本格的に活動を始めたKiss Of Lifeのコンセプトやダンスは元々妖艶な雰囲気があり、動きも激しいタイプの楽曲が多い印象でしたが、今回のStickyは夏をテーマにしたダンスチューンということもあり、さらに露出を高めたことにより『やり過ぎでは』の声も挙がってしまいました。

とはいえ、単純にセクシー路線で男性の目を惹くために今回のコンセプトを採用したわけではないのです。


『Sticky』の音楽面での考察

Kiss Of Lifeの『Sticky』の音楽性についてはYoutubeでも解説しているのでこちらもぜひご覧ください。

 

レゲトン要素を取り入れたビルボード系R&B

今回のStickyという楽曲はレゲトンと言われるレゲエ由来のビートと、ビルボード系と呼ばれるUSチャートを意識したコード進行やメロディを併せ持つ楽曲と言えるでしょう。

レゲトンという音楽ジャンルをよく知らないという方へ簡単に説明すると下記のようになります。

①跳ねたリズムとビート

レゲトンは90年代にダンスホール・レゲエから発展したプエルトリコの音楽です。

リズムは4/4拍子ですが、スネアドラムやハンドクラップの跳ねたアップビートがトレシージョと呼ばれるズレ、いわゆる”3-3-2”のリズムで叩かれるのが一般的な特徴です。

「Sticky」にもこのレゲトンリズムのパターンが明確に存在しています。

日本ではレゲエというと『一生一緒にいてくれや~』の三木道三さんが有名ですが、あちらはボブマーリーなどの本来のレゲエミュージックのリズムでして、クラブやダンスホールでDJが流すようになってから大きく発展したレゲトンというジャンルは殆ど馴染みがなかったと思います。

00年代にMINMIという女性シンガーがレゲエのリズムを取り入れたR&Bがスマッシュヒットを飛ばしたことはあります。

MINMI-THE PERFECT VISION(2002)

ラテン系楽曲とビルボードの席巻

そしてこのラテンのレゲトンビートの流行を受け、ダンスやMVコンセプトにも影響を与えたのが90年代後半から2000年初頭のことで、数々のポップアーティストがこのエッセンスを取り入れました。

代表的な作品はなんといっても2001年、アメリカ最高のポップシンガーである”ブリトニースピアーズ”の『I’m a slave 4 you』だったと思います。

リズムについては実はファレル・ウィリアムスという敏腕プロデューサーの手によるもので、ラテンの音色と現代的なエレクトロミュージックからの影響が強いものなのですが、小麦色の肌を露出したセクシーなラテン系衣装と動きの激しいダンスは強烈なインパクトを残しました。

Britny Spears- I’m A Slave 4 U(2001)


ブリトニーのラテンコンセプトが一般リスナー層へ受け入れられたこともあり、そこから一気にビルボードミュージック(アメリカを中心とした世界の音楽シーン)の中でラテンビートへの移行が活発化します。

比較的最近ですと、TikTokで大流行した”Taki Taki”などがまさにレゲトンビートのビルボード楽曲と言えます。

“Taki Taki” by DJ Snake feat. Selena Gomez, Ozuna, and Cardi B

Stickyのさらに現代的なビルボード風トラック

上に挙げたレゲトンビートのUSヒット曲はトラック全体、MVの雰囲気など全体としてラテンの情熱的で少し退廃感を打ち出しています。対して『Sticky』はビートこそ跳ねたラテンビートですが曲調は爽やかです。

アリアナ・グランデの『Thank You, Next』のようなエレピ(エレクトリックピアノ)を控えめに鳴らすようなトラックでラテンで基本的に用いられるフラメンコなどの短調の音階ではなくキラキラした明るい長調で作られているのが特徴です。

さらに、現代K-POPの定石ともいえるサビ前でのコード変化やビートチェンジも全くなく、ビルボードチャートに出てくるような一貫したループトラックとコーラスのみで構成されていました。

ここに、今回のKiss Of Lifeが既存のK-POPサウンドに新たな挑戦状を突き付けるような覚悟を感じます。

なぜこのような試みをしてK-POPファンの支持も同時に受けられるのかは、彼女たちのこれまでの活動実績を知れば見えてきます。


Kiss Of Lifeの所属事務所の成り立ち

所属事務所はS2エンターテインメント

彼女たちの所属事務所はS2エンターテイメントというあまり聞きなれない事務所なのですが、代表のホン・スンソン氏を調べていくとCUBEという事務所でK-POP創成期から業界を支えた大御所経営者だということがわかります。
さらにJYPエンターテインメントの共同創立者でもあり、そのホン・スンソンが2020年に設立した企画会社にKiss Of Lifeは所属しています。

CUBEを去った創設者ホンスンホン氏の挑戦

CUBEエンターテインメントは、G-IDLEやPENTAGON、BTOBなどK-POPの黎明期を作った有名グループが多く所属しています。その創設者にあたるホン・スンホン氏ですが、2020年3月26日に開かれた株主会議で、VT GMPという大手企業から買収されたことが明らかになりました。

  • VT GMP・・・KOSDAQ(コスダック / 韓国の証券市場)の上場企業であり、
    化粧品製造・販売、Eコマース企業。

そのタイミングで遺恨を残すような形でホン・スンホン氏はCUBEを去っていました。

「私の人生をかけたCUBEに未練はもうないので去ることにする。また違う姿で皆さんの前に立つ」

「良きパートナーであることを信じて疑わなかった人々が、私と共にする気がまったくないと悟るまで、長い時間はかからなかった。これまで互いに分けた信頼も、強い情も一瞬にして崩れ去ることはあまりにも辛い事だが、CUBEをこれからさらに輝かせることが、残った者たちの任務だ」

 

ホン・スンホン氏公式Twitterでの表明

新たに立ち上げた事務所に集った才能たち

その後、新たに立ち上げたのが現S2エンターテインメントとソロアーティストのプロデュースをメインとしたAURAエンターテインメントでした。

実はKiss Of Lifeのメンバーの一人BELLEはAURAエンターテインメントに所属していました。

このAURAエンターテインメントのメインタレントしては元BIG HITエンターテインメントの作曲家兼プロデューサーであった女性シンガーADORAが有名でした。

ADORA-Trouble?(2022)


Kiss Of Lifeメンバーの経歴

CUBEの経営権問題から派生した新会社S2エンターテインメントの最初のグループとして作られたのが、Kiss Of Lifeというグループだったのです。

ここからは各メンバーの経歴やデビューのきっかけなどを深堀していきます。

①Nattiのデビューのきっかけ

Kiss Of Lifeのシンボルとして、グループをけん引しているのがオールラウンダー・アーティストとして圧倒的な実力を見せつけるNattiでしょう。

彼女はTwiceのメンバーを決めるJYPのサバイバルオーディションSIXTEEN、及びMnetのオーディション『アイドル学校』の参加者でK-POPアイドルファンの中では知られた存在です。

オーディション番組に何度も脱落

2013年、SMタイグローバルオーディションに合格して10歳で練習生生活をした経験もあり当時、Red Velvetのジョイ、スギと同じ宿舎に住んでいたそうです。
その後、JYPのサバイバルオーディションSIXTEENに参加し惜しくも脱落してしまいます。
2017年、ストーンミュージックエンターテイメントに入社し、3度目の練習生生活を経験します。

筋金入りの努力家としての顔が伺えますね。

2020年、WAKE ONEレーベルからソロ歌手としてデビューするも活動は続かず、苦難の時代を過ごすことになってしまったNattiでしたが、意外な出会いが訪れます。

Natti 1stソロデビュー-Nineteen(2019)

過去の挫折から意外なチャンスを得る

そんな中、過去に一緒に練習生生活を送っていた元アイドル候補生『イ・へイン』がS2エンターテイメントのビジュアルディレクターとして抜擢され、Nattiに白羽の矢が当たります。

彼女はガールズグループデビューへのスカウトだけでなく、Nattiに作曲を教えて将来的にアーティストとして輝けるようにも支援するという提案をし、契約に至ります。

この提案はアーティストにとっても素晴らしい内容で、K-POP業界の中でも良心を感じますね。

②BELLEのデビューのきっかけ

次に、現在の若手K-POP業界でボーカルスキルが高く評価されているBELLEの経歴を見てみましょう。

BELLEは2004年 3月20日に生まれ、アメリカのワシントン州、シアトルで育ちました。

有名歌手を父に持つBELLE

父親はシムシンさんという、日本で言えば徳永英明さんのようなバラード歌手として大変優秀だった方です。

<シムシン>
ベストヒット曲〈ただ一つだけの君〉で90年代初めに全盛期を味わった。 1991年第6回ゴールデンディスク賞新認可賞、第2回ソウル歌謡大賞新人賞、KBS歌謡大賞新人賞、MBC 10代歌手歌謡祭10代歌手賞、そして1992年第3回ソウル歌謡大賞優秀賞など様々な賞を受賞した。

アリアナグランデのような本格的なR&Bボイス

幼い頃からピアノ、バイオリンなど、クラシックを学んでいたそうですが、段々とPOPS音楽特にHIPHOPやR&Bへの才能が花開いていきます。

特にボーカル面で影響を受けた歌手として韓国のソウルシンガー”ペク・イェリン”やアリアナグランデ ボーカルを上げており、R&Bソウル歌姫としての目標を持っていたことが垣間見えますね。

作曲/プロデュースワークが得意なメンバー

BELLEは当初、AURAエンターテインメントの方でソロ歌手としてデビューする予定でした。それまでは所属作曲家としての契約だったそうです。作曲家としてデビュー前既にK-POPの有名楽曲に参加していおり、代表曲はPURPLE KISSのFind YouやLe SserafimのUnforgivenにも作曲家の一人として名を連ねています。

LULUPOP×PURPLE KISS₋”Find You”(2021)

元のAURAエンターテインメントは結局S2エンターテインメント傘下に統合されるのですが、高校3年生の時にKiss of lifeへの参加が決まった後は、S2エンターテインメントで約1年間の練習生期間を設けダンスを猛特訓したと言います。

アイドルになる考えは全くなかったBELLEだったそうですが、クリエイティブディレクターのイ・へインが彼女の歌声を高く評価し、ガールズグループデビュー組への迎え入れを提案して説得したという逸話が残っています。

③JULLIEのデビューのきっかけ


3人目に紹介するメンバーはJULLIEで2000年生まれ。2024年ブレイク時には24歳と、若年化するK-POP新人の中でもしっかりと研鑽を積んだ後デビューしたJULLE。

もともとYGエンターテイメントのプロデューサーTeddyが率いるTHEBLACKLABELの練習生だった彼女、高いポテンシャルを買われていたことが分かります。

12歳まで米国 ハワイの ホノルルで育ち、韓国に逆移民しウル特別市で育ったというバイリンガルであることも強みです。

出身校はソウル江南の有名スクール
THEBLACKLABELだけでなく、スイングエンターテイメント、S2エンターテインメントと合計で計6年間練習生で無所属の時はソウルにあるデフダンスクール、デフ実用音楽学院でダンスとラップを学んだことも本人が語っています。

デフダンススクール時代を語るJULLIE


2020年4月、デフラップ学園でデフアイドルプロジェクトでDoja Catの「Tia Tamera」をカバーした映像をS2エンターテイメントのイ・へインが発見し、スイングエンターテインメント時代にNattiと一緒に練習生生活をしていた縁でデビュー組に迎え入れられたそうです。奇跡的な才能ある人々同士の繋がりが垣間見えます。

④Haneulのデビューのきっかけ

最後に最年少メンバーHaneul(ハヌル)を紹介します。

2005年 5月25日生まれで2024年現在19歳のとても若いメンバーですね。
169cmと身長も高く、恵まれた体形を持つハヌルですが、高校2年生の時からS2エンターテインメントで約1年間練習生として過ごしKiss Of Lifeとしてのデビューを掴んだ実力派。

デビュー前に既に長い芸能経歴を持つKiss Of Life他のメンバーたちの推薦もあって選ばれたと言います。

アイドルを目指すきっかけはSISTARのコンサート
彼女のK-POPアイドルを目指すきっかけははSISTARだと言います。幼い頃、家族と一緒に兄のサッカーの試合を遊びに行った際、SISTARの招待公演を目にし、オーディションに挑戦するようになったと言います。

ステージ上では他メンバーとそん色ない華麗なダンスを披露していますが、舞台を降りるとまだあどけない表情を見せることもあり、最年少(マンネ)メンバーとしての魅力をふんだんに発揮していますね。

六本木の一風堂を訪れたときの写真


女性同士の絆が生んだKiss Of Lifeの成功

メンバーたちの生い立ち背景や結成秘話を知ってからKiss Of Lifeを改めて見ますと、また違った魅力が感じられるのではないでしょうか?

特に女性クリエイティブ・ディレクターとして彼女たちを支える元アイドル候補生イ・へイン氏のプロデューサーとしての嗅覚が見事で、才能あるメンバーをオーディション形式ではなく人脈を辿って集めたという形跡があります。

このことは大規模オーディションに頼ることが難しい中小事務所やそこに所属する研修生たちに大きな希望を与えることですよね。

2024年に大きく羽ばたくことができたKiss of Lifeの今後の活躍が楽しみです。

Kiss Of Lifeのような歌唱力を手にするには?

記事をお読みいただければわかるようにKiss Of LifeのメンバーたちはK-POPだけでなくアメリカやイギリスのビルボード系楽曲への愛情が深く、R&Bミュージックの基礎をしっかりと持ったアーティスト達です。

私たちTop1ine Artist Developmentでは、K-POPの歌い方の源流にあるいわゆるアーバン系R&Bボーカルを日本人も習得できるよう、ボイストレーニング技術の開発に力を入れています。

ボーカル歌唱について学びたい方は、こちらの記事にあるトレーニング法をぜひお読みください。

【実例解説】K-POPアイドルの歌い方はJ-POPと何が違う?│『K-POPボイトレ』でスクール初心者が学ぶべき4つの発声技術

執筆者情報
TOKIONE TETSUYA
AVEXワールドオーディション台湾での優勝を機に作曲家として活動し、 独立後はシティポップ・アーティストとしてJAPAN TIMES誌にも掲載された。 NTTドコモ音楽事業部にて、デジタル音楽及び全国オーディションプラットフォームのサービス主幹を担当。 2014年から発掘・アーティストプロデュースを担当した清水美依紗がメジャーデビューを果たした。 早稲田大学・政治経済学部政治学科卒。

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